ラテンアメリカ諸国は新興経済国として知られていますが、一方で一般的な金融サービスや消費財へのアクセスが限られており、銀行口座を持てない、あるいは銀行サービスを利用できない貧困市民層が一定数存在しているという地域ならではの特性があります。BNPLの「分割払い」というコンセプトはこの弱点を克服できる大きな魅力です。BNPLの利用により、消費者は他の決済方法では金銭的に手の届かない商品やサービスにアクセスできるようになるのです。BNPLの「Buy Now, Pay Later(今買って、後で払う)」というコンセプトは、現在の金融の進化をリードし、国家が繫栄するための有望な道筋を提供する決済方法といえます。
現代金融のゲームチェンジャーとしてのBNPL
BNPLは、消費者の購入方法を変える画期的な金融ソリューションです。BNPLプロバイダーを通じて商品やサービスを決済すると、消費者は即座に支払いをすることなく商品を購入することができます。取引はあらかじめ決められた返済スケジュールに沿って行われ、金利手数料はかかりません。クレジットカードとは異なる、柔軟かつ無利息な購入方法であるBNPLという新たな決済の選択肢が消費者に提供されるのです。
BNPLの推進要因
「今買って後で支払う」というコンセプトは実は目新しいものではなく、その歴史は19世紀にまでさかのぼることができます。例えば売掛帳やクレジットカードの分割払いなどがその例です。しかし、今日のBNPLソリューションがこれまでのものと違うのは人工知能やデータ分析ツールと統合したことです。また、導入は従来の金融機関ではなく加盟店である各小売店に委託するため、承認プロセスもわずか数秒で完了します。さらに、BNPLによる決済にはクレジットカードや銀行口座も不要なため、銀行口座を持たない顧客にも門戸を開き、金融包摂の拡大にも繋がります。
BNPLのグローバルな影響
BNPLをナビゲートするにあたって重要なことは、グローバルな状況を把握することです。この革新的な決済手段は世界的な拡大が著しく、目覚ましい成長を遂げようとしています。BNPLによる決済は2021年には9%との記録でしたが、2026年までには世界のEコマース全体の4分の1近くを占めるようになると予想されています[1]。ただしラテンアメリカの状況はやや異なっており、2021年にはEコマース全体のわずか1%に過ぎず、2025年に至っても3%への増加に留まると予想されています[2]。
ラテンアメリカの経済状況
米国や欧州地域と比べ、ラテンアメリカ各国では後払いによる分割購入がかなり一般的です。新興経済国であり、経済格差の中で一般的な金融サービス(銀行やクレジットカード)手段を持たない貧困層が多く存在しており、特にそのような人たちにとって、分割払いによる購入は他の決済方法では購入が困難な商品やサービスを手に入れるためには不可欠な手段であり、そのため長らくこの決済方法が根付く状況を生み出したのです。
クレジットカードによる分割払いは世界的には一般的といえますが、これらの国では人口のかなりの層は利用することができません。その理由は与信限度額の低さや、銀行口座を開設出来ないことなどです。ラテンアメリカでは約1億7800万人が銀行口座を持っていないとの2021年のデータもあります[1]。そこで、BNPLを導入すれば、これまで利用できなかった人々も分割払いを利用できるようになり、魅力的な選択肢を増やすこととなるのです。とはいえ、現実的には古くからの決済規制がこの地域には根強く残っており、BNPLの導入はまだまだ順調ではありません。
- 地域の決済習慣を理解する
世界的な決済トレンドは重要ですが、それぞれの国における独自の消費者行動の特性があるということも忘れてはいけません。特にラテンアメリカにおける決済事情は非常に微妙です。例えば、コロンビアでは、Eコマースの支払方法で最もよく使われているのは銀行振込で総取引の40%をも占めており、これは地域平均の13%を大幅に上回っています。これだけ見てもラテンアメリカにいる2億5,600万人以上のオンライン購入利用者が、支払方法に関して独自のこだわりを持っていることがお分かりいただけるでしょう[2]。 - ブラジルこそがBNPLのリーダー
ラテンアメリカ地域でのBNPLの明るい未来をもたらす例としてブラジルが挙げられます。国民の69%がクレジットカードを持たないブラジルでは、オンライン販売におけるBNPLの割合は2021年の1.5%から2025年には3.8%に伸びることが期待されています[2]。購買力の向上やコンバージョン率の上昇といったBNPLの利点は、ブラジル市場におけるその計り知れない可能性を裏付けています。 - 各事業者によるコラボレーション
ラテンアメリカのBNPL市場で成功するためには、BNPL事業者同士のコラボレーションという戦略も有効です。市場が広大であるからこそ、各社が競争するよりも協力する方が市場拡大の可能性が広がるのです。例えば、KueskiやNeloといったメキシコを拠点とするオンライン・レンディング・プラットフォームはコラボレーションを採用し、消費者のBNPLへの乗り換えやBNPLセクターの持続可能な成長を促進しています。さまざまなBNPL事業者が協力することで、消費者にとってはより良いサービスとアクセシビリティが確保され、事業者にとっては市場が拡大するという双方への利点が生まれています。 - ソーシャル・インパクト
他地域に比較してラテンアメリカにおいてのBNPLはより社会的影響が大きい決済手段です。特に、銀行口座を持たない人々も高額商品を購入できる、平等な機会がBNPLといえます。その一方で、特に若年層の消費者は、長期的な支払による金銭的な影響を十分に理解しないまま安易に分割払いを選んだ結果、過剰債務となるリスクもあることは忘れてはなりません。金融リテラシーと責任ある支出を促進するバランスの取れたアプローチが、BNPLが社会全体に利益をもたらすためのキーなのです。 - これからの課題
BNPLがラテンアメリカで歩みを続けるにあたっては、革新的に推し進める部分と慎重であるべき部分の適切なバランスを見つけなければなりません。BNPLがこの地域の人々にとって害悪ではなく、喜ばれるものとなるためには、この微妙なバランスこそが重要なのです。ラテンアメリカは金融変革の岐路に立っており、今日の選択が経済の将来を形作ることになるといっても過言ではありません。
結論
ラテンアメリカではBNPLの導入はまだ初期の段階ですが、顧客と加盟店の双方にとって計り知れない可能性を秘めていることは間違いありません。海外および現地プロバイダーは、まずはこの地域の特性を理解し受け入れること、それこそが金融包摂、アクセシビリティ、そして今後の繁栄の道を切り開くことに繋がるのです。BNPLのラテンアメリカにおける進化は、金融情勢を慎重に見極めながら、金融のゲームチェンジャーとして機能させることが不可欠となるでしょう。
参考文献::
- Ibarra, F. Why Homegrown Latin American BNPL Providers Are Ahead in Underserved Markets. Payments Journal. 2023.
- Constantinescu, R. Buy Now, Pay Later: how is the major trend faring in Latin America? Voice of the Industry. 2022.